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名古屋高等裁判所 昭和38年(ネ)320号 判決 1966年12月14日

控訴人附帯控訴人

鈴木廉平

代理人・弁護士

杉浦酉太郎

被控訴人附帯控訴人

株式会社国神製作所

代理人・弁護士

高井貫之

外一名

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、別紙目録(二)記載の土地を引き渡せ。

控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事   実≪省略≫

理由

一当裁判所も、被控訴人は、本件仮換地につき原判決認定の如き使用収益権を有するものと判断し、その理由は、控訴人の当審における主張に対し次のとおり判断を附加するほかは、原判決の説示するとおりであるからその理由記載を引用する。

(一)  当審における控訴人本人尋問の結果中、控訴人の当審主張一の事実に添う部分は原判決採用の各証拠及び当審証人伊藤伝三郎の証言に照し、とうてい指信し難く、他に、右事実を認めて原審認定を覆する証拠はない。

(二)  被控訴人が賃借権を放棄したとの点については、これを認める何らの証拠もない。控訴人の消滅時効の主張については、<証拠>を総合すると、被控訴人は昭和二九年七月頃まで従前の土地を使用収益していたこと及び本件仮換地は、その従前の所有者たる訴外服部正吉において昭和三三年九月末日頃始めてこれを控訴人に明け渡した事実が認められるところ、本訴提起の日が昭和三五年九月一一日たることは記録上明白であるから、いずれにせよ、被控訴人の賃借権が消滅時効により消滅したとは認め難い。

そして、従前の土地につき三重県知事を施行者とする旧特別都市計画法による土地区画整理事業が施行され、右土地に対する仮換地(換地予定地)として本件仮換地が指定されたことは当事者間に争なく、また、本件土地区画整理事業は土地区画整理法施行後は、同法施行法第五条により昭和三〇年四月一日以降同法第三条第四項の土地区画整理事業となつたものと認められるから、被控訴人は本件仮換地につき前記賃借権と同一の内容を有する使用収益権を取得したものというべく、されば、控訴人に対し右使用収益権の確認を求める被控訴人の請求は正当として認容すべきである。

二次に、被控訴人の当審における本件仮換地の引渡請求につき判断する。

被控訴人が本件仮換地につき使用収益権を有することは前説示のとおりであり、控訴人が本件仮換地を占有していることは控訴人の争わないところである。

しかるところ、被控訴人は、本件仮換地につき本件土地区画整理事業の施行者から土地区画整理法第九八条第一項所定の権利の目的となるべき土地としての指定通知を受けていないことは被控訴人の自認するところであるが、本件においては、被控訴人は施行者からの指定通知なくして本件仮換地を現実に使用収益し得るものと解するを相当とし、その理由は以下述べるとおりである。すなわち、本件各証拠によると、被控訴人が賃借していた従前の土地は一筆の土地の全部であり、右一筆の土地に対し一の仮換地が指定されたことが認められるうえ、<証拠>を総合すると、本件土地区画整理事業においては、未登記借地権等の届出の期間は旧特別都市計画法施行令第四五条により昭和二二年一月二九日までと定められたところ、被控訴人は、右期間内に施行者に対し、従前の土地につき控訴人名義で連署された未登記権利届(但し、届出の日及び受付日の記載なく受付印の押捺はない)を提出したことが明白である。そして、<証拠>によれば、当時、右事業を担当していた四日市都市計画復興事務所においては、一時に右の如き権利申告が殺到したため、右届出書には受付印を押捺せず、かつ、受付日を記載しなかつた事例が多く、また、届出日時の記載洩れの届出書も存したこと及び、当時、同事務所の受け付けた権利申告は約二五〇〇件に達したが、うち、同事務所において指定通知したものは僅少であり、特に、一筆の土地全部についての賃借権及び届出日時の記載洩れの申告に対しては全くこれを指定通知していないことが認められる。しかも、<証拠>を総合すると、被控訴人は、戦前より、従前の土地に南接する右伊藤伝三郎の所有土地及び訴外山路寅次郎所有土地をそれぞれ賃借し右三筆の土地上に建物数棟を所有していたところ、昭和二三、四年頃従前の土地上に存した建物が倒壊したが、前記復興事務所は、従前の土地が都市計画施行地区であることを理由として建物を再建しないより指示したため、被控訴人は建物の新築を見合わせこれを材料置場等に使用し来り、また、前記二筆の土地上に存した被控訴人所有の倉庫及び木造平家建トタン張建物等については、昭和二八年頃旧特別都市計画法第一五条の規定による移転命令が発されたため、控訴人はさきにも触れた如く昭和二九年七月頃までに右各建物を除去して従前の土地を明け渡した事実を認めることができる。上記認定事実によれば、被控訴人は一筆の土地全部の賃借人として、旧特別都市計画法施行令第四五条に基きその所定期間内に、従前の土地につき有する賃借権の届出をなした者であるが、施行者は、右の如き場合には賃借人に対しこれを指定通知する要なきものとしたため、爾来約二〇年を経過した今日に至るまで、被控訴人に対しては格別の指定通知をしなかつたに過ぎないのであり、この間、施行者としても、従前の土地については被控訴人の賃借権が存するとの前提の下に、爾後の手続を進めているやに窺われるのである。このような場合にまで、従前の土地の賃借人は、施行者の指定通知がなければその仮換地を使用収益できないとするのは著しく迂遠に過ぎるものというべく、畢竟、そこには、もはや、法が施行者の指定通知を要求した理由ないしは必要性は失われているものと解さねばならない。されば、被控訴人は施行者の指定通知を受けるまでもなくして、本件仮換地を現実に使用収益し得るものとなすべきである。

なお、控訴人は本件仮換地の引渡義務と、被控訴人の延滞賃料支払債務とは同時履行の関係に在る旨主張するが、本件事実関係に徴すると、とうていそのように認めることはできないから該主張は理由がない。

三叙上説示の如く、原判決は相当であつて控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴による当審第一次請求は正当であるからこれを認容すべく、民訴法第三八四条第九五条第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

なお、被控訴人の当審における仮執行宣言の申立については、これを付さないのが相当と認められるので、該申立を却下することとする。(県宏 越川純吉 可知鴻平)

別紙・目録≪省略≫

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